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或る闘病記

生きるって楽しい。

スーパーバグ・クライシス

 

 風邪で病院に行ったとき、「取り敢えず抗生物質出しときますね〜」とか言われたことありませんか?

 

 それ、ヤブ医者です。

 

 日本では、昔から抗生剤が「気休めの薬」として提供されてきました。僕も風邪になるたびに、白っぽい袋に入った粉薬を処方されて飲まされた記憶があります。

 

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 こんなやつですね。じつはこの味結構好きだったんですよ。舌の上で溶けて行く感覚とか懐かしいですね。体が大きくなって粉薬が錠剤に変わったとき、少し残念でした。

 

 それはさておき。 風邪に対して抗生物質を処方する、というのは、全くの

「無駄」

だということが分かっているようです。抗生物質は「細菌(バクテリア)」には効きますが「ウイルス」には効きません。インフルエンザの場合に使われるリレンザタミフルは「抗ウイルス剤」で、「抗生物質」とは全く異なります。風邪の場合は、原因となりうる100種類以上のウイルスを特定するよりも、自然の免疫力で治した方が早い、というわけです。

 

アメリカでは、医者は基本的には抗生剤を処方しないそうです。 厳しい規制があるらしく、風邪はおろか、他のウイルス性の病気だったとしても、抗生物質の処方はほとんどしてくれないそうです。当然といえば当然ですが。不要な抗生物質の処方は行わない、というのが世界的な医療のスタンスになってきているようですね。風邪ぐらい冷えピタ貼って寝とけや、みたいに言ってくれる医者の方がいい医者ですよ。

 

 

 どうしてこんな話をしているのかというと、僕の傷口から、とあるウイルスが検出されたからです。

 

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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 (CRE)。

 

これは、「抗生物質耐性菌」と呼ばれるもので、その名の通り、抗生物質が効かないウイルスです。近年、猛威を振るうようになり、2014年にWHOが警鐘を鳴らしてからは、世界的に危機意識を持たれるようになったみたいです。

 

 どうして最近になって問題化してきたかというと、世界的な抗生物質の乱用が原因だそうです。抗生物質というのは、使い続けるとそれに耐性を持つ菌が生まれ(ウイルスってすごいね)、耐性を持った菌のDNAが伝達され、それに対して人間がさらに強い抗生物質を投与し…と続くうちに、どんどん強力な菌が生まれるようです。そして感染症の最終手段として使用され、最強の抗生剤と言われるカルバペネム系の抗生物質に強い耐性を持つ菌が誕生しました。これがCRE、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌というわけです。こういった細菌はsuperbug(スーパー耐性菌)と呼ばれています。世界初の抗生剤ペニシリンが生まれて90年。ホイホイと薬を使う人間に対して、ウイルスがついに攻勢にまわったというところですかね。

 

 

 どれほど危険なものなのかを調べてみたところ、2050年には年間1000万人が死亡すると予測されているそうです。癌による死者数が現在世界で年間900万人なので、それ以上ということになりますね。キャメロン首相が "medical dark age" と恐れ、オバマ大統領でさえ "most pressing public health issues facing the world today" と危機感を募らせているのも頷けます。あのアメリカでさえ、今後さらに抗生物質の使用を規制していくそうですよ。日本の厚生労働省は何しとんねん先月ようやく動き出したようです)。

 

 現在、国内ではカルバペネム耐性腸内細菌科細菌に年間1700人程が感染し、60人程が死亡しています。全世界では年間70万人が命を落としています。僕は保菌しているだけで、感染しているというわけではありません(傷の治りが遅い原因がこの菌のせいかどうかはまだ分からないようです)。ただ、血管や骨に入ると、敗血症などの重症になる可能性があり、最悪の場合死にます。血流感染の死亡率は40〜50%とされているそうです。

 

 

 ー  と、こんな感じで書くと割と深刻そうに見えますが、別にそういうわけでもないです。というのも、スーパー耐性菌というのは、健康な人には全く無害な菌です。ただ、手術直後の患者や免疫力の弱っている患者に対しては、非常に危険だ、ということです。

 

 あれですね、緑膿菌とかと同じ話です(余談になりますが)。植物の表面などに付着している緑膿菌は、もちろん健康な人には何の問題もないですが、免疫の弱った患者には危険、最悪の場合血液や気管、尿路などに感染して死に至るということで、多くの病院ではお見舞いのお花を禁止しています。京大病院はもちろん禁止で、お見舞いでお花を持ってきてくださった方には申し訳なかったのですが、ナースステーションで預かってもらったあと、親に家に持って帰ってもらってました。あれは禁止のくせして地下の売店で花売ってるのが悪いねん…。

 

 

 話がそれましたね。何の話やっけ。とにかく、健康な人がお花をベタベタ触っても大丈夫なように、僕が傷口をベタベタ触っても大丈夫だ、ということです。

 

 ただ、医療の進歩とウイルスの進化のイタチごっこは、行く末が案じられて非常に心配です。目には目を、なんてやってたら、いつか人類滅ぼされますよ。スーパー耐性菌が蔓延しだしたら、ただの風邪くらいでも、免疫低下に付け込まれて死んでしまうことになります。あるいは、先端医療をいくら施しても、多くの人が術後の全く関係ない感染で死亡してしまう、ということが十分あり得るわけです(これが危惧されています)。日本では2010年に帝京大学病院の院内感染で患者46人が感染、うち27人が死亡して問題になっていました。まさに現代医療の終焉ですね。果たして、「スーパーバグ・クライシス」と呼ばれるこの状況に打開の道はあるのでしょうか…。

 

 

 

 とりあえず、今度発熱して医者にかかったとき、ただの風邪なのにフロモックスを処方しようとしたら、「そんなもんいらんわボケ!」とでも言って帰ってやろうと思います。みなさんも「黙れヤブ医者!」くらいの勢いで噛み付いて、「ん、あれ、どうして風邪なのに抗生物質を処方なさるんですか…?」と根掘り葉堀り聞いてくださいね(もちろん正当な理由があって処方される場合もありますが)。あなたの意地悪な質問が世界を救います。