或る闘病記

生きるって楽しい。

手術前日

 

宝物に気づきました。

 

意外とすぐ近くにありました。

 

たくさんありました。

 

僕は本当に幸せでした。

 

人に恵まれていました。

 

応援のメッセージを送ってくれて。

 

会いにきてくれて、他愛もない話をして。

 

本当にあの頃と変わらない。

 

人の縁は、そんなに簡単に切れないんです。

 

いい宝物を授かったなぁ。

 

 

 

 

やっぱり、死にたくないや。

 

 

目の前に、こんなにも愛すべき世界が広がっているというのに。

 

5年生存率が40%であると告げられたあの日。

 

あぁ死ぬんだ、と本気で思いました。

 

学校に行ったり、友人と遊んだり、

 

そんな当たり前のような生活はもうできない、

 

僕はこの世を去るんだ。

 

涙が溢れて溢れて止まらなかった。

 

悔しかった。

 

本当に悔しかった。

 

でもさ、

 

崩れ落ちた自分に手を差し伸べてくれる人がいて。

 

倒れないようにと支えてくれる人がいて。

 

前を向けるように背中を押してくれる人がいて。

 

僕はあなた方がいなければここまでこれなかったんです。

 

頑張れ、負けるな、

 

そんな一声に何度救われたことか。

 

ありがとう。

 

本当に、本当に、ありがとう。

 

 

どこからともなく、追い風が吹いているような気がして、

 

多分それは、僕が恵まれているからなんです。

 

 

 

 

 

 

癌になって、全てが変わりました。

 

変わったと思っていました。

 

でも違いました。

 

変わったのは、自分の身体のごく一部だけでした。

 

家族も、友人も、先輩も後輩も、先生も、何も変わらなかった。

 

みんないつも通り接してくれました。

 

僕は患者である前に1人の人間でした。

 

 

 

 

大学を卒業する前に死ぬと思っていて、もう社会には出られないと思っていて、大学に通う意味さえ分からなくなっていたけれど、

 

結局前期より後期の方が成績が良かった。

 

今を全力で生きようと思ったんです。

 

患者としてではなくて、1人の人間として生きようと思ったんです。

 

患者であることを忘れさせてくれた人がたくさんいたんです。

 

そのおかげで、今僕はここにいます。

 

 

 

 

 

 

あなたもわたしも、いずれ死にます。

 

命は有限です。

 

だからこそ、いちはやくそれに気づくことが重要なんです。

 

 

 

 

 僕は、あの時風邪をうつされなかったら、今頃進行の進んだ癌の餌食となって死んでいました。

 

だから今こうして生きているのが、途轍もなく不思議で、この上なく嬉しくて、言葉にできないほど素晴らしく感じて。

 

 

 

けれども、僕は癌を決して悪者扱いしようとは思いません。

 

むしろ逆です。

 

僕は癌という病気に、この世界の美しさを教えてもらいました。

 

空が青かったり、パンが美味しかったり、朝気持ちよく起きられたり、

 

癌という病気は、そんな些細なことで心が満たされるほど幸せになれるようにしてくれたんです。

 

生きている今この瞬間がどれほど掛け替えのないものなのかを伝えてくれたんです。

 

 

そして明日、本当に何事もなく手術を迎えることが出来ました。

 

だからこそ、こう言えるんです。

 

ありがとう。

 

 

 

 

がんになって良かった。