抱負
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。
髪の毛も綺麗さっぱりなくなって、清々しい新年を迎えました。病院の最上階から見る初日の出は美しかったです。曇っていて見えないかと思われましたが、無事、雲の切れ間から陽が覗きました。
ところで。
実は今まで、この闘病記では病名も治療法も公言していませんでした。あまり心配させてしまってもいけないし、中途半端に説明して誤解されてもいけないと思っていたからです。
でもやっぱり知っておいてほしい、そう思うようになりました。それだけで力になるような気がするからです。ちゃんと言います。
僕の癌は、胚細胞腫瘍と呼ばれるものです。精巣がんのほとんどが、この胚細胞腫瘍だとされています。
しかしながら、僕の場合は精巣には出来ませんでした。胚細胞腫瘍の約3%にあたる、"性腺外"胚細胞腫瘍です。原発巣が左右の肺の間、前縦隔と呼ばれる部分にあります。
この下の赤い丸の部分に、長径約10cmの腫瘍があります。握りこぶしくらいですかね。
精巣原発の胚細胞腫瘍の5年生存率は、80〜90%とされていますが、性腺外に腫瘍が出来ると格段に生存率が落ちます。縦隔原発の場合、5年生存率は40%程度とされています。
また、大動脈をはじめとする大きな血管や、心臓・肺といった重要な臓器、さらには胸骨の内側ということもあって、そう簡単に切除できるものではありません。
また、胚細胞腫瘍は癌の中でもトップレベルで進行の早い癌です。
そこで化学療法を行います。抗がん剤治療です。進行が早いということは、すなわち増殖の速い細胞が多く、抗がん剤が効きやすいのです。 (髪の毛が抜けたりするのも、その部分の細胞の増殖が速いからです。)
まずはBEP療法と呼ばれる治療法を行います。何日目の何時にどの点滴を打つかまで、正確に決まっている確立した治療法です。そしてガン細胞を壊死させて小さくした上で、切除手術に踏み切ります。この手術は極めて難しく、時には20時間程度を要することもあるそうです。
ただ、この治療法は毒性の関係上、21日間を1クールとして4クールまでしか行えません。それまでに腫瘍が縮小しなければ、それ以降は別の療法に切り替えねばならないのですが、そうなるとBEP療法ほどの効果はあげられなくなります。つまり、来年の春には回復の目処が立っていないといけない。
要は、この癌は短期決戦なのです。僕が1年後に生きている確立は、統計上は五分五分です。統計上はね。
だからこそ、2017年は勝負の年なのです。生きるか死ぬか。1年後には土の下に眠っているか、土の上で走り回っているかの二択なのです。
人生の天王山ってやつですね。
頑張ろう。
今日の日の入りも美しかったです。
西方に沈む夕日を、僕は1年後もこの目で見る。そう誓いました。
明日も生きよう。
脅威と驚異
昨日はクリスマスでしたね。ぼっちは何とか回避しました。
そういえば。
クリスマスの朝、やっぱり枕元にありましたよ。
そうです。あれです。
大量の毛髪です。
本当に汚くてすみません。
寝癖がついたままの髪の毛が抜けています。
まぁ、量的にはこんなのまだ序の口らしいですけどね。おそろしや。
引っ張るとスルスルっと抜ける、とかそういう次元ではなくて、もはや風に煽られるくらいで抜けていきます。
30秒ドライヤーを当てるとこの有様。
もう抜けすぎて、写真を撮らずにはいられないですね。流石にあと数ヶ月もつとは思えない...
正常な細胞にこれだけ効いているんだからガン細胞にもかなり効果があるのでしょう。きっと。
僕はもうハゲてる人を見て笑うことはこの先ないと思います。自分の体の一部が目に見えてなくなっていくの、案外つらいね。
ところで。
予定では明日、自家末梢血幹細胞採取を行います。これは、もし今の療法で効果があげられず、造血幹細胞が死滅するほど強い抗がん剤を打つことになったとき、血球を復活させるために造血幹細胞を予め採取しておくというものです。
https://www.ntt-east.co.jp/kmc/guide/hematology/psc.html
自分の病気に対する知識もかなり増えてきました。新しいことを知るたびに、つくづくと人間の身体の不思議というか、生物って絶妙なバランスの上に作られているんだなぁと思うし、だからこそカナメのネジが一本でも吹っ飛ぶと脆くも崩れ去ってしまうというか。
単なる無機物と有機物の集合体に命が宿っていて、意思があって、その上動き回ってるってどう考えても驚異的というか、むしろおかしくないですか?
まぁいいや。今日は体調も気分もいいので映画でも見て寝ます。
そうそう、明後日あたりから外泊できそうです。やった。
それでは。最近更新遅くてすみません。
明日も生きよう。
QOL
「ばか、入院生活で一番大事なのはQOLなんだよキュー・オー・エル!」
高2のときの担任の先生は笑ってそう言った。ちょうど2週間前に高校に行ったときの話。癌だと告げると驚いたような表情をしたのも束の間、「あなたは話題に事欠かない人だね〜。」とおどけた。先生はこの日も白衣を着ていた。
入院して1週間が経った。些細なことに幸せを感じられるようになった。朝起きると青空が広がっていて、白い雲の切れ間から朝日がまみえる。心地よい寒気が肌をつつく。それだけで、本当にそれだけでいい。
Quality of Life. 「生活の質」というよりも、「人生の質」とかいう風に訳した方がしっくりきそうな気もする。
質を高める、ということの最も簡単な方法は、自ら低い基準値を設定することかもしれない。それは当然いい意味で、ということだが。生きることの質なんてものは数字で測りきれないし、測りきれないからこそ自分自身の設定値が基準となりうる。
今まで当たり前だと思っていたことが当たり前でなくなったとき、必然的に基準値は下がるものだ。するとどうだろう、もう何もかもが素晴らしい世界に見えてきてしまう。愛すべき世界が眼前に広がっていることに気づく。朝起きて自分が生きている、今ここにいる、この何とも言い難い快感。
でも実を言うと、これまで通りの基準値だったとしても、病院生活はそこまで不自由じゃないかもしれない。それくらい充実している。今日も朝から元気にパンに小細工して食ってやった。美味しい。友達が持ってきてくれたラフランスは生ハムで巻いて食べました。何食べてもいいからね。お昼のハヤシライスも美味しかったなぁ。築1年、Wi-Fi完備。ここはホテルかよ。
帰省
「大学生活は人生の夏休み」
そんな言葉をどこかで耳にしたことがある。
膨大な時間が地平線いっぱいに広がっている、そんな人生のうちのわずかな数年間。
その大学生活のなかで闘病生活を送るということ。
僕自身はそれを不幸だとは全く思わない。
この数週間で、懐かしい顔にたくさん出会えた。
数日ぶりに会う人から、3年ぶりに会った人まで。
僕はこの長い闘病生活を、人生の夏休みのうちの、お盆みたいなものだと捉えている。
僕は普段、何気ない生活を送っているだけでは会えない多くの人のもとへと帰省させてもらっている気がする。
人のぬくもりを知る、本当にいい機会だ。
むしろ神からの贈り物とでも言っていいかもしれない。
長い間離れていたようで、実は繋がっていたという安心感。
人の絆なんて、そんなに簡単に解けるものではない。
久々に会って、馬鹿みたいに笑いあったり、あの頃を懐かしんだり、ちょっぴり泣いたり。
不思議だなあ、とふと感じた。
多くの人にこの世に繋ぎとめられている。
それが支えられているということの真髄。
とりあえず5日間の抗がん剤連続投与が終わりました。副作用はありません。しゃっくりさえも。心身ともに陸上で鍛えてもらって良かった。
さて。明日から3日間は投与がないので為すことが何もありません。暇だなぁ笑
レポートでもするか。
明日も生きよう、繋がりを感じて。
追い風
きた。
やつがきた。
ついに副作用がきた。
しゃっくり。
笑わないでおくれよ
出始めたら本当に止まらないんですよ。
ひっくひっく
抗がん剤シスプラチンの影響だそうです。
吐き気とかは皆無です。
今日もお見舞いで持ってきてもらった食べ物をむしゃむしゃ食べていました。
ひっくひっく、むしゃむしゃ 。
そうそう、体重62kgで治療を開始したはずなのに、たった3日間でついに70kgを超えてしまいました。恐るべし点滴。血圧も110から140近くまで上がってます。
ところで。
昨日、今日は週末だったので、色んな人が会いに来てくれました。たわいもない話から涙が止まらなくなるような話まで、本当に自分にとって大事なものというか、希望の光というか、そういったものが見えてきそうな気がした2日間でした。
高校のときの陸上競技部の後輩達からは、千羽鶴までいただきました。もう生きるしかない。
何だろう、圧倒的な追い風を感じる。
生きているということを力強く実感した2日間でした。
仲良くしていた同じ病室のおっちゃん2人が退院したのが、嬉しいような寂しいような、そこだけが少し複雑な気持ちですけどね。それだけ。
ゆっくり歩けばいいさ。
明日も生きよう、追い風を感じて。
空
朝起きると、虹がかかっていました。
向かいの人が教えてくれました。
病床から見える淡い光。 美しきアーチ。一筋の希望。
昨日9時間点滴をしたせいで、朝測ると1日で体重が2kg以上も増えていました。わお。
ちなみに今日は昨日より点滴の種類が3つ多くなりました。9:50点滴開始。
12:30
また虹が出ました。今度はうっすら。
空を見上げることが多いと、いろんなことに気づきます。
虹って1ヶ月に1回見たらいい方やけど、実は1日に何回も出るんやね。条件揃えば。
虹を見ながら食ってたわけじゃないですよ。花より団子派ですから。
写真にはクレーン車が写っていますが、これは長年看護師さんらに「あの病棟は"出る"」と恐れられていた建物を壊しているところです。
少しずつ低くなってきて、向こうの山がどんどん見えてきています。
あ、病院食って案外おいしいですよ。
小学校の給食とか比じゃないです。もはや学食の域に到達しています。
今日は写真の通りかき揚げうどんでした。
ちなみに昨日はカレーライスでした。うまい。
病院食まずいとか言ってる奴は一回入院してくださいね。ほんとに。
感謝感謝です。
今日は点滴を3本並行に繋ぎました。壮観。
点滴は毎時何mL滴下と決まっているので機械で流量を調整しています。
やっぱり空を見上げるのっていいですね。
ということで今日のタイトルは「空」でした。
朝10時前に始まった点滴は、今14種類目を打っていて、まだ続いています。おそらく夜10時過ぎまで。看護師さんありがとう。
今日はこの辺で。
明日も生きよう、空を見上げて。
静かな始まり
13時57分、抗がん剤シスプラチン投与開始。
おおっ、これが抗がん剤ね、って感じ。
抗がん剤といっても、その大半は生理食塩水。そこに薬品をほんの少しだけ入れたものです。
結局今日は副作用止めの点滴も含めて9時間くらい点滴してました。ザ・病人。
僕の抗がん剤はBEP療法に厳格に基づいて行われます。要は点滴を投与する日程だけではなくて、その時間も分単位で刻まれています。説明が長くなりそうなのでもっと知りたい人はググって下さい。
あ、URL貼ればいいんだよね。
はい。
http://www.cc.u-ryukyu.ac.jp/~uro/protocol/seisousyuyou_bureo.html
1回目の点滴が終わって、親父から「気分はどうや?」とLINEが来たので「お腹減った」って返しときました。
副作用くるかなぁ、くるかなぁ、と思っていたら来ません。
どうやら4日目か5日目あたりから徐々に来るそうです。
この週末は元気に過ごせるってことやんね。良かった。
というわけで、元気なうちに、髪の毛がボサボサのうちに、お見舞いに来てほしいなぁ、とか思ったり。
あ、そうそう。抗がん剤を打った後はそれを洗い流すために利尿作用を促す薬を投与します。点滴つけたまま5分に1回トイレ行くの、つらいつらい。尿量も計らないといけないのにさ。駿台京都校の浪人生みたいにトイレで過ごしたいなぁ。本当に。
しょうもない話してすみません。でも僕は用もないのに用を足してるフリをする浪人生は落ちると思いますよ。文字通りの用なしです。やめてくださいね。トイレはみんなで使いましょう。
病室のおっちゃん達とはなかよくなりました。何かそういうのいいよね。楽しい。
明日も生きよう。おやすみなさい。